墓標

「僕の頭には、強い劣等感と確固たる優越感とが気圧の様に流動している。そして、これ迄の経験によって培われてきた脳みそからは、酵素が発酵して、いろんなイメージ(イデアとも言うべきか)が次から次へと泡立っているのである。そして又、どんなコンピュータよりも、万能的に訓練されてきたこの10本の指は、脳から神経をへたイメージを、選ばれた素材に刻みつける。この刻印されたものは、最早ただの物質ではなく、呼吸する息のこめられた永久的不滅の僕の像(墓標)なのである。上前智祐」(『現代美術—僕の場合—』1988年)

上前智祐さんは関西の前衛美術グループ「具体美術協会」の創立メンバーとして知られていますが、早くから絵描きの才能を開花させた美術家であると同時に、長く製鋼所で働き続けた労働者でもありました。貧しい家に生まれ、戦争を通過し、製鋼所でクレーンマンなどとして働きながら、油絵具を塗り、オガクズを固め、糸で縫い、マッチの軸を重ね、つねに稠密なその作品をさまざまな形でつくり続けたのです。

神戸のアトリエにうかがったときに撮らせてもらった写真の一枚。壁に掛けられた小品のひとつひとつに、時計で刻み流していくことのできないもっと生々しい時間が降り積もっているようです。それを「墓標」と呼ぶ上前さんの言葉が、眼に刻まれます。

 

2017年09月02日(土)

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