対馬麻

《対馬-Ⅹ》2012年、京都国立近代美術館蔵

壁にかかっているタピスリーの真ん中に、藍色をした刃の切っ先のようなかたち。福本潮子さんが手がけた作品です。

福本潮子さんは藍染の作家として長く活躍されている方です。そう聞くと、一瞬「ん?」と思うかもしれません。この作品で実際に染められているのは、真ん中の小さなかたちしかないのですから。

しかし作品からは、おそらく画像から感じられる以上の存在感が発せられています。それはひとつに、このタピスリーに仕立て上げられた対馬麻の力によるものでしょう。対馬麻とは、かつて長崎県の対馬で自生していた大麻の繊維を用いて織られていた布です。現在ではまったく生産されていませんが、藤布やオヒョウ、オクソザックリなどその他の古布と同様に、貴重な資料、コレクターアイテムとしてわずかに市場に出回っているばかりです。

自分の中にある理想的な空間のイメージを表現しようと、素材としての布を「私が使いこなすというか、引っ張っていくようなかんじ」で制作を展開してきた福本潮子さんですが、近年取り組まれているこの作品をはじめとした古布のシリーズでは、「逆に引っ張られているかんじで、私の染めは布を際立たせるためのもの」へと意識の変化を遂げています。素材自体に蓄えられている歴史や時空をこそ作品化するために、そっと、しかし誰よりも大きく懐の深い手を添える。「頭の中のどういったコンセプトを表現するのか」のそのずっと前の(あるいはその果ての)「手を介してどういった素材と交わるのか」への跳躍は、福本潮子さん自身が「素材がコンセプトである」と言明されている通りでしょう。

展覧会では、この作品のほか古布による新作と、「こんな仕事はもう二度とできない」とご自身でもおっしゃっている《太陽の道》(1998年)を出品します。

 

2017年11月25日(土)

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