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特別展
遠距離現在 Universal / Remote
現代美術が観測した、個人と社会の距離感
20世紀後半以降、人、資本、情報の移動は世界規模に広がりました。2010年代から本格化したスマートデバイスの普及とともに、オーバーツーリズム、生産コストと環境負担の途上国への転嫁、情報格差など、グローバルな移動に伴う問題を抱えたまま、私たちは2020年代を迎えました。そして、2020年に始まった国境のないパンデミックにより、人の移動が不意に停止されたものの、資本と情報の移動が止まる気配はありませんでした。かえって、資本や情報の本当の姿が見えてくるようになったと思えます。豊かさと貧しさ。強さと弱さ。私たちの世界のいびつな姿はますます露骨に、あらわになるようです。
展覧会タイトル「遠距離現在 Universal / Remote」は、資本と情報が世界規模で移動する今世紀の状況を踏まえたものです。監視システムの過剰や精密なテクノロジーのもたらす滑稽さ、また人間の深い孤独を感じさせる作品群は、今の時代、あるいはポストコロナ時代の世界と真摯に向き合っているようにも見えます。本展は、「Pan- の規模で拡大し続ける社会」、「リモート化する個人」を軸に、このような社会的条件が形成されてきた今世紀の社会の在り方について取り組んだ8名と1組の作品をご紹介します。
展覧会チラシ 作品リスト
出品作家
井田大介《誰が為に鐘は鳴る》2021
ヴィデオ(ループ再生) © Daisuke Ida
Courtesy of the artist
井田大介(いだ・だいすけ)
1987年鳥取生まれ、東京在住。彫刻・映像・3DCGなどを用いて、目には見えない現状の社会の構造や、そこで生きる人々の意識や欲望を視覚化している。本展では3点の映像作品を再構成し、「飛行」「上昇」「落下」のメタファーでコロナ禍社会を捉える。
徐冰(シュ・ビン)《とんぼの眼》2017
ヴィデオ、ライブ配信サイトで公開されている監視カメラ映像からの抜き出し、81分 © Xu Bing Studio
Courtesy of the artist
徐冰(シュ・ビン)
1955年中国生まれ、ニューヨークと北京を拠点に活動。初の映像作品《とんぼの眼》(81分)は、ネット上に公開されている監視カメラ映像、約11,000時間分から編集された長編映画。
上映時間(81分)
10:30– / 12:00– / 14:00– / 15:30–
※当館地下1階ミュージアムスタジオにて1日4回上映
※上記の時間以外は《とんぼの眼》メイキング映像を上映(約10分)
トレヴァー・パグレン《ミッドアトランティッククロッシング (MAC)、米国家安全保障局 (NSA) と英政府通信本部 (GCHQ) が盗聴している海底ケーブル、大西洋)》2015
Cプリント、121.9×152.4cm © Trevor Paglen
Courtesy of the artist; Altman Siegel, San Francisco; Pace Gallery, New York
トレヴァー・パグレン
1974年アメリカ生まれ、ベルリンとニューヨークを拠点に活動。地理情報と軍事機密、マシンビジョン、監視と通信システム、AIによる自動生成イメージなどをテーマに制作。本展では〈上陸地点〉〈海底ケーブル〉〈幻覚〉の3シリーズを展開する。
ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ヒト・シュタイエル、ミロス・トラキロヴィチ《ミッション完了:ベランシージ》2019
3チャンネル・HDヴィデオ(カラー、サウンド)、展示空間(47分23秒) ノイエ・ベルリナー・クンストフェライン(n.b.k.)での展示風景
ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ヒト・シュタイエル、ミロス・トラキロヴィチの共同制作 作家蔵 Courtesy the artists; Neuer Berliner Kunstverein, Berlin; Andrew Kreps Gallery, New York; Esther Schipper, Berlin
Photo © Neuer Berliner Kunstverein (n.b.k.) / Jens Ziehe
ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ
ヒト・シュタイエル
ミロス・トラキロヴィチ
シュタイエルはデジタル技術や資本主義といった社会的条件の中のイメージの生産と消費に関する映像作品を制作。《ミッション完了:ベランシージ》は3人の共同制作による。
地主麻衣子《遠いデュエット》2016
HDヴィデオ、40分 © Maiko Jinushi
Courtesy of HAGIWARA PROJECTS
地主麻衣子(じぬし・まいこ)
1984年神奈川生まれ、東京在住。映像、インスタレーション、パフォーマンス、テキストなどを組み合わせた自らの作品を「新しいかたちの文学的な体験」と呼ぶ。チリの詩人・小説家のボラーニョをめぐる《遠いデュエット》(40分)は5章からなる映像作品。
ティナ・エングホフ《心当たりあるご親族へ――男性、1954年生まれ、自宅にて死去、2003年2月14日発見》2004
アーカイバルピグメントプリント、120×160×5cm
© Tina Enghoff
Courtesy of the artist
ティナ・エングホフ
1957年デンマーク生まれ、コペンハーゲン在住。福祉国家の構造的暴力といった社会問題に焦点を当てたプロジェクトに取り組む。日本初公開となる本展では、代表作〈心当たりあるご親族へ〉で都市に存在する孤独を問う。
チャ・ジェミン《迷宮とクロマキー》2013
シングルチャンネル・HDヴィデオ(カラー、サウンド)、15分 © Jeamin Cha
Courtesy of the artist
チャ・ジェミン
1986年韓国生まれ、ソウル在住。日本初紹介。映像作品《迷宮とクロマキー》では、「ネット強国」を自負する韓国社会の片隅で、インフラを作る作業者の姿から、大量の情報を支える個人の労働が浮かび上がる。
エヴァン・ロス《あなたが生まれてから》2023
壁紙、サイズ可変
展示風景:「あなたが生まれてから」ジャクソンビル現代美術館、2019 © Evan Roth
Courtesy of the MOCA Jacksonville. Photo by Doug Eng
エヴァン・ロス
1978年アメリカ生まれ、ベルリンを拠点に活動。制作にハッキングの概念を持ち込む。コンピューターのキャッシュに蓄積された画像を用いたインスタレーション《あなたが生まれてから》は、本人も知り得ない自画像を写す。
木浦奈津子《こうえん》2023
油彩・キャンバス、181.8×259cm © Natsuko Kiura
Courtesy of the artist. Photo © EUREKA
木浦奈津子
1985年鹿児島生まれ、在住。一貫して風景、特に日常の景色を独自の距離感で見つめ、描き続ける。本展では、新作を含む大小様々な絵画を構成することで、新たな風景を広げる。
展覧会タイトルについて
今の時代を生きる私たちにとって、「遠さ」を感じることは、困難である。だが、その地理的な「遠さ」は決して打ち消すことはできない。コロナ禍では2メートルという距離が設定されたが、それは「飛沫が届かない遠さ」を確保するためだった。あるいは、入国制限や渡航禁止によって、国家間の「遠さ」が露呈した。停滞した物流は、地球に住む私たちに「遠さ」の認識を改めて突きつけた。ふだんは見えなかっただけ、意識にのぼらなかっただけで、もともと「遠かった」ことをこのパンデミックの時に認識したのだった。リモートワークの定着によって「遠さ」を隠蔽、解消することに成功はしたし、コロナが沈静化すると、早くも「遠さ」の感覚を我々は忘れてしまった。
タイトル「遠距離現在 Universal / Remote」は、常に遠くあり続ける現在を忘れないために造語された。本来は万能リモコンを意味するUniversal Remoteを、スラッシュで分断することで、その「万能性」にくさびを打ち、ユニバーサル(世界)とリモート(遠隔、非対面)を露呈させる。コロナ禍を経て私たちが認識した「遠さ」の感覚、また、今なお遠くにそれぞれが生きていることを認識するのは重要なのではないかという思いが、この題名に込められている。
基本情報
※入場は閉館の30分前まで
アクセス
※( )内は前売り及び30名以上の団体料金
【前売券】
オンラインショップ「339」
チケットぴあ〈Pコード 686-868〉
※販売は2024年3月30日(土)から6月28日(金)まで
※広島市現代美術館の受付でも販売しています
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