終了

収蔵作品展 2004-Ⅱ
少年・少女王国

2004年9月14日(火) — 12月5日(日)

本展覧会では、少年・少女、つまり、子供たちを扱った作品に焦点を当てます。一言で「扱う」といいましたが、子供を描く対象とすることからはじまり、子供の振る舞いのようなみずみずしさを表現の方法としたり、子供の視点を世界観の根幹のひとつに置くなど、そのあり方は様々です。
いうまでもなく、子供は、古今東西の美術の中で数多く描かれてきました。そこにさまざまなかたちで子供観が反映しています。フランスの歴史家、P・アエリスの名著『〈子供〉の誕生』によると、かつて子供はただ小さな大人とみなされていた時代があり、保護されるべき子供時代というのは近代の賜物だといいます。日本の中世史家、黒田日出男の説では、中世の童(わらわ)は神に近い存在だと考えられていたようです。このように、子供観は時代によって異なるようです。私たちの時代のそれははたしてどのようなものなのでしょうか。
西洋における子供の図像としては、幼子イエス、とりわけマリアと一緒にいる聖母子像がポピュラーです。聖母マリアがキリストの遺体を膝に抱えて嘆き悲しむ、いわゆる「ピエタ」という図像がありますが、イエスが幼児のときにすでにこの図像で表して、その将来を暗示するものまであります。当館のヒロシマをテーマにした収蔵作品の中に、これを取り込んだものがあります。このキリスト教の造形には、何よりも子への愛情を表す普遍性があるからだといえるでしょう。
子供の存在や親子の関係を理想的なものとみなすこともあれば、逆に、子供に様々な社会問題の縮図を見ることもあります。思春期の対人関係をテーマにしたクシュシトフ・ウディチコの《ディス=アーマー、ヒロシマ・プロジェクト》は、青少年の具体的な問題に切り込んだ珍しい作品です。
「子供」が美術においてとりわけ重要になってくるのは、20世紀に入ってからではないでしょうか。画家の中には、一見、子供のように稚拙な描き方をする人がいます。いわゆる「幻想の時代」のピカソにはとりわけそれが顕著です。日本では、岡本太郎がその役を担いました。この、子供のような絵に、高度な技術に裏打ちされた芸術を称える考え方から、発想や視点の自由さ、新鮮さにこそ価値があるとする考え方へという、芸術観そのものの大きな転換を見ることができます。つまり、芸術観の根幹に子供観が関係したといえるのです。
近年、日本の美術において、アニメや漫画、プラモデルなど、子供の楽しみや遊びを作品に取り込むものが登場してきました。これは、ポピュラリティーの問題だけではないようです。もはや子供は大人と切り離された存在ではなく、大人の中に子供的なものが、子供の中に大人的なものが入れ子になっている今日の時代を反映しているのではないでしょうか。また一方で、これらアニメや漫画などを取り込むことで、現実の世界から特殊な距離を置いたうえで、世界のあり方を問うているのかもしれません。
このように、「子供」という観点から、美術の動き、変化、その可能性の一端を見ていただければ幸いです。

出品作家
ヘンリー・ムーア、アンソニー・グリーン、リチャード・ハミルトン、チャック・クロース、ミルトン・グレイザー、大森運夫、高松次郎、森芳雄、ポール・デイヴィス、横尾忠則、カレル・アペル、立石大河亞、岡本太郎、篠原有司男、ロバート・ラウシェンバーグ、元永定正、クシュシトフ・ウディチコ、柳幸典、椿昇、ヤノベ・ケンジ、会田誠

基本情報

会期
2004年9月14日(火) — 12月5日(日)
開館時間
10:00–17:00

※入場は閉館の30分前まで

休館日
月曜日※月曜日が祝休日にあたる場合は開館、翌平日休館
観覧料
一般320(250)円、大学生240(190)円、小中高生150(120)円
  • ( )内は前売り及び30名以上の団体料金
主催
広島市現代美術館

イベント・カレンダー

開館時間10:00-17:00
TEL082-264-1121